発癌物質含有ジェネリック薬品ニュースの波紋

9月に入って、数名の患者さんが自らジェネリック薬品(後発医薬品)について話題にされることが続いている。
♣おのずと知れた発癌性物質がジェネリック薬品に含まれていたニュースを受けてのことである。つまり、7月上旬に、中国企業が製造した原薬に発がん性物質が混入したとの情報が海外の規制当局から寄せられたため、後発医薬品メーカの「あすか製薬」は、自社の高血圧症治療薬「バルサルタン錠『AA』」約11万箱を自主回収すると報じられたことに端を発している。
ニュースから二か月、世間の眼はスポーツイベント(ワールドカップやアジア大会)や次々と襲う異常気象や天災に向けられたせいか、大した話題になっていないかのようだが、患者さんとしては看過できない問題として、実は波紋が次第に広がっていることを、一医師として身をもって感じている。

バルサルタン錠は機能が低下した腎臓の負担を軽減し腎不全の進行を抑制する「アンギオテンシンII受容体拮抗薬・ARB」と呼ばれる降圧薬(高血圧の薬)のひとつなので、私は従来からたくさんの患者さんに処方してきた。錠剤には20㎎、40㎎、80㎎、160㎎錠の四種類があるので、微妙な量の調節ができるのが腎臓医の私にはとてもありがたい。20㎎錠を割れば、10㎎から160㎎まで簡単に調節できる。腎機能が低下した患者さんや高齢者には、むしろ少量を継続して服用してもらいたい人が多いから20㎎錠を処方することも多い。高血圧や循環器内科を専門とする医師には、あまり馴染みがないことであろうが。(下記に「腎臓は鍛えられるのか?」という記事に、腎機能が低下した状況はまるで”ブラック企業の従業員”のように負担が強いことを説明しているが、ARBはその負担を軽減する効果があると考えられている)

♣現在我が国の保険診療では、7種類のARBを使うことができるが、そのなかでもバルサルタン錠のシェアは大きい。もともとはスイスのノバルティス社が開発しディオバンという名前で上梓されていた(ノバルティス社が我が国で行われた臨床治験研究において、このディオバンの心血管病に対する薬効を偽造したという事実はあるが、だからと言って、腎臓機能保護効果については無関係だと私は考えている)。
この薬剤の大きな市場に今や何社もの後発医薬品メーカーが参入し、バルサルタン錠としてジェネリック薬品(つまり、ディオバンと同じものとみなされる薬品)が幾種類も販売されている。アスカ製薬のものは会社名が判別できるように「バルサルタン錠『AA』」とされている。

普段の診療では処方の段階で、ジェネリック薬品を医師が制限しない限り、院外処方なら調剤薬局がどの後発医薬品メーカーのバルサルタン錠を患者さんにお渡しするのも自由である。調剤薬局の多くは、最も採算性の良いバルサルタン錠を患者さんに渡すであろう(仕入れ価格や在庫などによって、一概にどの会社のものと決められず、その時その時で状況は変わるものと私は予想する)。それはビジネスであるから当然の行為であろう。彼らの扱う錠剤の数が多ければ多いほど、仕入れ価格はとても大きな要素となる。

一方、診療所などの院内処方の場合は、先発メーカーの「ディオバン」を処方するか後発メーカーにするか、後発ならどこの会社の「バルサルタン錠」を処方するかは、まさしく医師の裁量にかかっていると言ってよい。最も大きな要素は、その医師が「ジェネリック医薬品をどの程度信頼しているか」にかかっている。先発品に比べたら薬効が低いのではないかと感じつつも、患者さんの病状によっては、安全性に問題がなければ「廉価であること」を理由に、ジェネリック薬品を選択することもあろう。通院患者さんの経済状態なども選択に影響する。個々の医師の経験(良い経験も苦い経験も)や、調剤薬局と同様に仕入れ価格も選択の大きな要素になるだろう。一零細企業にすぎない個人の診療所は、先発品「ディオバン」と後発品「バルサルタン」の両方を自らの施設に用意する余裕はまずない。

野村医院では父の時代には、ながらく先発品の「ディオバン」を、数年前からはサンド製薬の「バルサルタン錠『サンド』」を採用してきた。幸いにも一度もあすか製薬のものは採用したことがなかった。
現在、野村医院において私は、高血圧や慢性腎臓病の治療のために数種類のARBをラインナップしている。そのなかで最も頼りになる某先発メーカーのARBはジェネリックにしない方針をとり、ノバルティス社のディオバンはサンド社のバルサルタン『サンド』を採用して、これらのARBを状況に合わせて使い分けている。

♣患者さんにとって、ジェネリック医薬品は、なんといっても廉価なのである。
ディオバンは、高価なARBのなかでも比較的廉価な薬価が設定されていた。それでも、ジェネリック「バルサルタン」に変更すると「こんなに負担が減るの!」と実感する。長年にわたって服用するわけだから、患者さんはとても助かる。そのうえ「効能や安全性が確立された医薬品」とされており、法律で認められている。「新薬と同じ有効成分、同じ効き目の価格の安いお薬」と認識されているから、「ジェネリックでお願いします」とご自身から指定される人もある。
にもかかわらず、患者さんの身体のことを考えた医師が熟慮の末(あるいは経済的理由や診療所の事情によって)、バルサルタンを正規の「ディオバン」に変更して処方したら、多くの患者さんは「高い薬を処方された」という気持ちになるかもしれない。こんな不幸なことってあるだろうか?

2018年9月現在、野村医院で採用している「バルサルタン錠」。発がん物質混入が取り沙汰されたバルサルタン錠とは異なるものです。

だが、今回のニュースを聞いて、患者さんご自身が調剤薬局や野村医院で受け取ったバルサルタン錠が、あすか製薬のものだったかどうか確かめたくなるのは当然のことである。だから、私は「お知らせ」で即刻野村医院の情報を公開した(下記リンク先参照)。たとえ、あすか製薬のものでなくても、ジェネリック薬品や後発医薬品メーカーやその産業システム自体への疑問・不安を感じて、ジェネリック医薬品を今後は服用したくないと、はっきり態度を示す人が現れた。冒頭のように私の患者さんでさえ数名に上る。

♣国は増加する医療費を抑制するための方策として、医療施設がなるべくジェネリック薬品を使うように様々な手を打っている。
たとえば、野村医院のような診療所では、処方するジェネリック薬品の割合が高くなると施設の収入が上がるような制度になっている(野村医院は、その割合が低くて基準に届きません)。しかし、医師にも患者サイドにも慎重派が多くて国が思うほどにはジェネリック薬品の割合は広まらない。そんな誘導策を執られても、信頼できない薬剤を大事な患者さんに処方したくないという医師もいる。
そのうえ、今回のことは、たった一つのメーカーのひとつの薬剤のこととはいえ、国の政策に冷や水を浴びせることになった。ますます慎重になる人が、医療サイドにも患者サイドにも増えると考えられるからだ。国や製薬メーカーはもっと丁寧な説明と現場に即した政策が求められているのではないか。

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