救急搬送の原因と時間帯の関係
救急車のサイレンを聞かない日はないです。
山添村内でも、それほど頻繁に出動していますが、
救急車の出動時刻と、要請原因となった病気には、密接な関係があります。
これも、以前に伊賀市愛宕町の町内会の講演会で述べた話題ですが、紹介させてください。
このような関係です。
◆早朝は、心不全や心筋梗塞、脳卒中
◆食事時(午前8時、正午、午後6時)は、誤嚥と窒息
◆夕刻は、散歩に関係した怪我や骨折
◆夕刻~夜更けは、お風呂での事故
◆深夜は、発熱や喘息、そして転倒、、、
例外もたくさんあることでしょうが、ひとつの傾向として書きました。
このなかでも、誤嚥・窒息と食事の時間帯との関係は、ほかよりもずっと強固です。
食事が誤嚥・窒息の原因であることに疑問の余地はないでしょう。
極論を言えば、誤嚥を防ぐには「食事をしない」「食事をさせない」ことが最も有効な方法であると、依然考える人たちがあります。
もちろん、それは究極の選択であり、苦渋の選択です。かつて、胃瘻や腸瘻という医療が頻繁に行われた理由の一つが、これでした。
しかし、口から食事を摂らせないで誤嚥を予防したところで、患者さんの人生は充実するでしょうか。また、経口摂取をしなくなる・させないことで、食事するという機能が衰えてしまい、誤嚥や窒息をむしろ招いているとさえ考えられるようになり、胃瘻・腸瘻は行き過ぎた医療行為として見直され、今日、以前ほど積極的に行われなくなっています。
さて、今回は、この誤嚥と窒息について考えてみましょう。
誤嚥・窒息は、とても危険
食べたり飲んだりしたものが、食道ではなく、気管支(空気の通り道)に間違えて入ってしまうことを誤嚥といいます。
また、食物が空気の通り道を塞いでしまい呼吸ができないことを窒息といいます。
誤嚥は、誤嚥性肺炎の原因となります。
毎年10万人以上の人が肺炎で亡くなります(日本の死因の第三位)が、その9割以上が65歳以上の高齢者です。
(だから、肺炎球菌ワクチンも65歳以上で接種が勧められていますね)
その肺炎の実に7割が、誤嚥性肺炎なのです。
つまり、毎年7万人以上の人が誤嚥性肺炎で亡くなっていることになります。
実に、天理市や名張市の人口に匹敵する数です。
窒息はさらに危険です。
一刻を争う「事故」のようなものです。
お餅を詰めた!というような窒息の場合、勝負は数分以内です。
五分間以上も呼吸が止まってしまうと、死亡率が極端に高くなりますし。高齢者の多くは、たとえ回復したとしても、いろいろな障害を遺してしまうからです。
●あなたが65歳以上なら
●高齢者と同居しているなら
●高齢者を預かる施設の従業員・スタッフなら
誤嚥・窒息はもっとも注意しなければならない病状です。
誤嚥・窒息しやすい人
誤嚥しやすい人、窒息しやすい人は、ある程度見分けつくと言われています。
三重県で誤嚥・窒息の予防と治療の啓発運動に長年携わっていらっしゃる井上登太先生(みえ呼吸嚥下リハビリクリニック)は、介護スタッフがリスクを評価するのに見るべきポイントを著書のなかで解説してくださっています。それによると、自分、家族、あるいは、介護している患者さんが危ないかどうかをある程度判断することができそうです。
◆口腔周辺の観察ポイント
1、 口臭 (文字通り、口が臭いかどうか。臭いほど、誤嚥や窒息のリスクが高い)
2、 口腔内の乾燥(口の中が乾いている人は危ない)
3、 口腔内に食物の残り物(残渣)を認めること(口を開けてもらって、食べ物の残りがあれば、危ない)
◆全身状態で観察するポイント
1、 ADL (簡単に言うと、日常の動作が、緩慢で自立が厳しいひとほど、危ない)
2、 るいそう(やせ) (痩せている人ほど、危ない)
3、 会話の明瞭度 (言葉がはっきりしない人ほど、危ない)
あなたの周りにも、こういう人はいらっしゃいませんか?
ご両親は大丈夫ですか?
お世話になってるデイサービスから、食事時に「むせていることがある」などと報告は入っていませんか?
予防はできるのか?
高齢の両親や家族を介護している人はもちろんのこと、初老期を迎えている人は、ご自分のためにも、以下の予防法に関心をもってほしいです。
前述の井上先生は、自立が困難な高齢者を想定して、食事介助の際に注意すれば、誤嚥や窒息をある程度予防可能だと説いて下さっていますが、これから肺炎予防が自分自身の問題になってくる世代には、自分のことと捉えてほしい内容です。
◆食事に集中させる (テレビを見たり、”ながら‟の食事をしない)
◆食事への意欲をかきたたせる (食べたい、食べるぞ、という準備のステップを重要視)
◆食事にふさわしい安定した姿勢を保つ (やはり、‟ながら”はダメ)
◆安定した呼吸を保持する
◆食事しやすい(飲み込みやすい)道具を工夫する
◆飲み込みやすいように調理する
◆飲み込みやすいように食べさせる、量も調整する。
◆食事の準備体操 (口や舌を動かす、「いただきます」という掛け声自体も予防効果あると)
いざ目の前で窒息したら、どうしたら良い!?
友達や家族や知り合いが、目の前で窒息したら、どうしたら良いのか??
すぐに呼吸を取り戻すことができたら、「ああ、危なかった~」なんて笑い話になってしまうような話題なのですが、そう簡単なものではありません。
ベテランの医師でさえ、目の前で窒息した人に何の手助けもできないまま、茫然と死んでいく様を見ているしか術がないことさえあります。
窒息や誤嚥のリスクが高い高齢者は、皆さんの周囲にだんだんと増えていますから、若い世代ほど、こういう事態の初期対応を求められることになります。
具体的な対処法は、次の「高齢者の誤嚥と窒息②」で考えてみたいと思います。
皆さんの興味が嵩じることを願っております。
それでは、よい一日を。