IgA腎症のこと

IgA腎症という病気をご存知ですか?

先日、ホンダ鈴鹿の平尾奎太(けいた)選手のことを書きましたが、彼が患ったIgA腎症(アイジーエーじんしょう)は、日本で最も多い「慢性腎炎」です。
慢性腎炎とは、いつの間にか尿に血や蛋白が混じるようになり、徐々に(慢性というのは少しずつという意味)腎臓機能が低下する可能性がある病気のことです。

尿に血が混じることを「尿潜血」、蛋白が混じることを「尿蛋白」といいます。
慢性腎炎を早期発見するために、ともに検診では重要な項目です。
慢性腎炎の多くは、糸球体(細かな血管が「セーターの毛玉」のような構造をしている部分)に炎症を生じることによって発症します。
ですので、慢性腎炎は、正式には「慢性糸球体腎炎」と呼ばれます。

検尿は腎臓病の早期発見に重要な役割を果たします。

糸球体に流れてきた血液から尿が作られるので、糸球体腎炎があると、尿に血や蛋白が混じるようになります。
つまり、検診で尿蛋白や尿潜血を指摘された場合、糸球体腎炎に罹患している可能性がありますから、症状がないからと言って軽んじてはいけません。

さて、今日のテーマである「IgA腎症」は、その糸球体にIgA(アイジーエー)という物質が沈着し炎症を起こす病気です。
IgAは人間なら誰もが持っている、身体の抵抗力・免疫力の一部を担う大事な蛋白質です。
血液中や唾液や胃腸の消化液の中にたくさん存在し、さらに、母乳の中にも含まれています。
この物質がなぜ腎臓の糸球体に沈着するのか、いろいろと取り沙汰されていますが、まだ詳しい機序や原因は解明されていません。

IgAが沈着した糸球体は、炎症を起こして(糸球体腎炎)、壊れていきます。
元気な成人は、左右の腎臓に各々100万個の糸球体を有すると言われていますが、壊れて糸球体の数が徐々に少なくなっていきます。
こういう状態をIgA腎症と言いますが、たとえ糸球体に炎症が起こり壊れても、人は特に何も感じません。
風邪を引いた後、赤黒い尿が数日間出ることがありますが(肉眼血尿)、日頃、発熱や疼痛などの症状はありません。
こんな状態が何年にもわたって続きます。

糸球体は名前のとおり、球形をしています。直径は1mmの半分もありません。中に毛玉のようにくるくるっとした毛細血管のかたまりが見えます。この中を流れている血液が血管の外に濾過されて、尿になります。

一旦壊れてしまった糸球体は、残念ながら元には戻りません。左右両方で200万個の糸球体の仕事(血液を濾過して尿を作る)は、糸球体の数が減るとだんだん能力が低下していきます。
それでも、特に症状がないという誠に厄介な病気なので、検診で早期に発見して早期に治療することが求められます。

学生のジョーク・「伊賀腎症」!

すこし脱線します。
あれはいつごろだったでしょう?

三重大学に赴任して間もない頃、病棟実習(ポリクリといいます)に来ていた医学生の一人が、面白いことを言いました。
「先生、やはり、三重県にIgA腎症が多いんですか?」って。

ポリクリ実習中に、これ以上面白いジョークにはお目にかかったことはありません。
最初私は、まじめに、IgA腎症の地域差について学生に説明しようとしました。
「IgA腎症は、東アジアや南欧の国々に多発するようで、米国や北欧・中欧には少ない。特に黒人には少ないと言われている。食事の影響なのか、民族学的な何か影響があるかもしれないね」と。

しかし、学生はニヤニヤ笑って、「先生、三重には伊賀市(IGA City)があるから、やっぱり、IgA腎症は伊賀の病気とちがうのかな?」
してやられました。こういうジョークは嫌いではありません。どっちか言うと好きです。残念ながら、その学生の名前も顔も覚えていません。彼がまじめに医者をやっているとしたら、今頃、卒後15年くらいの中堅医師として、どこかで活躍してるはずです。こんなジョークを言える人は、何科に行っても、大成することと思います。

三重県伊賀市はどのへんか分かりますか? 我が山添村は、その西隣、県境を挟んで奈良県にあります。

今では、私が彼のジョークを「自分のジョーク」のように使わせてもらっています。
先日も、鈴鹿回生病院に平尾投手の取材撮影に来たNHK記者に「三重県にはIgA腎症が多いかも、だってIGA(伊賀)だから」というと、大いに受けました。
彼女も大阪人だそうです。

あの時の学生君、もし、このブログを読んだら、名乗り出てほしいなあ。

”もちろん、IgA腎症は伊賀腎症ではありませんので、念のため。”
しかし、これも何かの縁です。伊賀市を含む三重県でIgA腎症による腎不全患者さんが日本で一番少なくなるようにと願いながら、三重大学医学部付属病院および鈴鹿回生病院在職中に私はひたすら扁桃摘出ステロイドパルス療法(後述参照)を行っていました。

IgA腎症は治る!治らない?

本論に戻りましょう。
私たちが腎臓医を目指したころ、もう30年以上も前のことですが、IgA腎症は治りにくい病気のひとつでした。
患者さんも多かったし、いろいろな治療が試みられましたが、なかなか治りませんでした。尿蛋白や尿潜血が続いたまま腎機能が低下して「慢性腎臓病」に、そして、ついに透析療法を余儀なくされる(腎不全に進行する)患者さんが多かったのです。

ところが、20年ほど前から、「扁桃摘出ステロイドパルス療法」という治療が開発されて以来、比較的治療しやすい病気になりました。なるべく早い時期に扁桃摘出ステロイドパルス療法を行うことによって、血尿や蛋白尿が消えてしまうようになったのです。血尿や蛋白尿が消失すると、腎機能が障害される速度も穏やかになり、腎不全への進行を多くの患者さんで防止できるようになったのです。先日のブログに書いた平尾選手も、この治療によってふたたび激しいスポーツが可能な状態に回復したのです。
血尿や蛋白尿が消失して腎機能が正常なまま保たれた状態を「完全寛解」といいます。

それでも、IgA腎症を代表とする慢性糸球体腎炎が原因で透析医療を開始する患者さんは、年間3,000人近い数に上ります。いくら治療しやすくなって完全寛解に至る患者さんが増えたと言っても、診断や治療開始が遅れると、腎機能障害の進行を止めることが困難だからです。
IgA腎症は、国指定の難病である理由は、そこにあります。
検診で尿蛋白や血尿を指摘されても、専門医を受診するまでに時間を要することが大きな問題です。上にも書きましたが、症状がないから医師の診察を受けないまま何年間もそのままにしている人もよく見かけます。IgA腎症における早期診断・早期治療の重要性を認識していない医師がいまだに多いこともひとつの要因です。そのような理由で、治療を受ける前から既に腎機能が低下している人をみると、残念で仕方ありません。

私は、三重大学医学部附属病院および鈴鹿回生病院在職中に、IgA腎症患者さんは、百人以上診療してきました。
もし、蛋白尿や血尿で悩んでいらっしゃる方がありましたら、遠慮なく相談にお越しください。

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今日のテーマは、少し難しい話題だったかもしれませんが、
・検診で指摘される「蛋白尿」や「血尿」は、症状の乏しい腎臓病を見つける大事な所見であること
・症状がないからと言って軽んじないで、専門医を受診すべきかをかかりつけ医とよく相談すること
・IgA腎症は、早期発見・早期治療で完治も期待できること
・そして、私の思い出、学生の「伊賀腎症」ジョーク、をお話ししました。
参考にしていただけましたら幸いです。

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