百歳の肺炎球菌ワクチン・長寿村作戦

なぜ高齢者は肺炎球菌ワクチンが必要なのか?

先日百歳になったばかりのAさんは、肺炎球菌ワクチンを希望して来院されました。

高齢者の肺炎を予防するために、2014年10月より肺炎球菌ワクチンが、65歳以上の方において定期接種の対象となりました。自治体によって接種時期や内容は異なりますが、通常は、その年に、65歳から、5歳刻み、つまり、70、75、80、、、95、100、105歳になる人(なった人)は、希望すれば、自治体の補助を受けて定期接種を受けることが可能です。制度が始まった2014年当時、Aさんは96歳だったので、今年初めて定期接種の対象となったのでした(もちろん、希望し自費負担すればワクチンをその年齢まで待たずに受けることも可能です)。

一位は悪性新生物、つまり、癌のことです。二位の心疾患は、主に、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患のことです。

最近の人口動態統計調査によると、肺炎は日本人の死因の第3位に入っています。年間約12万人が、肺炎が原因で亡くなり、死亡総数の9%~10%近くに上ります。その肺炎で亡くなる方の実に95% が65 歳以上の高齢者です。つまり「年齢」は肺炎の大きな危険因子、高齢であればあるほど肺炎に罹患しやすいから、65歳以上では定期接種の対象となっているのです。
高齢者は免疫能(抵抗力)の低下と栄養不良が、肺炎に罹患しやすい原因と考えられています。そのうえ、体の筋肉が少なく体力が乏しい高齢者は発熱や咳などの症状が乏しいために、肺炎を早期に発見しにくい。つまり、病状が重症になるまで治療が遅れるため、いったん肺炎になると、重症化し死亡率が高くなります。

肺炎は、季節によって発生頻度が異なります。
やはり冬季に多いです。感冒などの軽症の気道感染から肺炎に進展することも多く見受けられます。
夏も油断できません。特に今年(2018年)はとても暑くて体力が消耗しています。このような時期は肺炎を起こしがちです。山添村では、夏場は製茶従事者にはまさに農繁期です。お茶の仕事に関わっていない農家の方々とでは、この時期の生活がまるで違います。5~6月よりも7月に入って、番茶や二番茶の時期になると、明らかに疲労感が漂ってくる人があり、こういう人に限って忙しいから受診も滞りがちになります。夏は製茶従事者の方々は、私にとって超高齢者と共に要注意とマークしております。

「市中肺炎」「院内肺炎」そして「医療・介護関連肺炎」

どこで感染するかで分類すると、従来から肺炎は、自宅にいても街を歩いていても発症(感染)してしまう”市中肺炎”と、病院に入院中に発症する”院内肺炎”の二種類に分けられると提唱されてきました。
その市中肺炎を起こす主な原因は、①インフルエンザ性肺炎(ウィルスによる感染)、②マイコプラズマ肺炎(マイコブラズマという病原体)、③肺炎球菌肺炎(これは細菌による感染)の三つです。②のマイコプラズマ肺炎は今生天皇でさえ罹患したことがあるくらいですから、予防はなかなか困難ですが、①はインフルエンザワクチン、③はAさんが受けた肺炎球菌ワクチンによって、感染を予防したり、もし感染しても重症化を防ぐことが期待できます。

肺炎球菌による肺炎は、市中肺炎のほぼ4割近くを占めると言われているので、その予防に努めることは国策としても重要な項目とみなされています。山添村においても、多くの人が積極的に肺炎球菌ワクチン接種を受けていらっしゃいます。

最近、”市中肺炎”、”院内肺炎”に加えて、”医療・介護関連肺炎”という第三の発生機序が提唱されるようになりました。自宅以外の医療・介護施設を利用する高齢者や在宅介護を受けている高齢者の肺炎が増えていることを意味しています。私たちのような診療所や介護施設などの医師や医療従事者は、感染予防にもっと意識を高めなければなりません。
百歳のAさんも、自宅に籠っていません。週数回はデイケアに通われていますし、何か月に一度は当院にも通院して下さっています。だからこそ、行動力のある超高齢者は、百歳でも肺炎球菌ワクチンが必要なのです。

肺炎球菌ワクチンは安全なワクチンの一つではありますが、決して副作用がないわけではありませんので、体調を見極めて接種させていただいております。

Aさんに、私は何も迷うことなく、ワクチンを打たせていただきました。毎冬、彼女は既に20年近くインフルエンザワクチンの接種もつづけていらっしゃいます。これらのワクチンが、彼女の今までの健康と長寿に貢献してきたものと考えます。繁栄している我が国が、Aさんの栄養状態や生活環境にも寄与し、ワクチンや医療が貢献してきた以上に、彼女を守ってきたことも疑いようがありません。
年配者が健やかな日々を送れるように、国や市町村の方針に沿って、ワクチンに限らず可能な対策をタイミングよく講じるのが私たちの仕事です。Aさんが、これからもお元気で暮らせますようにお祈り申し上げます。

もうひとつ 高齢者の肺炎予防に必要なこと。

ウィルスや細菌に感染することで生じる肺炎とともに、高齢者の肺炎で重要なのは、「誤嚥性肺炎」です。

誤嚥とは、食事内容や唾液・胃液が、気道(空気の通り道)に誤って入ってしまうことです。
高齢者の中でも、特に誤嚥しやすい人、注意するべき人がいらっしゃいます。この誤嚥性肺炎については、今春、三回シリーズでまとめてみましたので、ぜひ下記のブログをご拝読お願い申し上げます。

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今日は、高齢者の肺炎と、その予防として、肺炎球菌ワクチンと誤嚥について話をさせていただきました。
野村医院では、常時、肺炎球菌ワクチン接種を行っておりますので、いつでもお問い合わせください。

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