ダニに咬まれたらどうしたら良いの?! ダニ注意報発令中

猛女現る! ‐初のダニ診療体験談‐

厚労省がこんな映画風ポスター(一番下の図)で啓発に乗り出したように、昨今「ダニは怖い!危ない!」という啓発運動が繰り広げられて、『ダニの怖さ』が世間に広く知られるようになったことは良いことです。
一方、山添村『開業医一年生』だった昨年は、ダニってどれほど怖いのか?いろいろ考えさせられた一年でした。
実は、こんなことがあったのです。

畑仕事が好きな八十歳の女性が、小さなナイロン袋に丸々と太ったダニを捕まえて「これに咬まれました」と来院されたのです。去年の今頃のことです。
今も、あの時の彼女の『笑顔』が忘れられません。
「先生は、良く知らないだろうから、見せてあげるわ!」
彼女の表情には、そんな感じがありました。
前の晩に、左乳房にそのダニを見つけたけど、彼女は焦ることもなく、そのままにしておいたそうです。翌朝、もう一度鏡の前で観ていたら、ポロっと落ちたので、台所にあったナイロン袋に入れて野村医院に来て下さったのでした。
この動画は、彼女が持参したダニを、処置室で二人で見ながら撮影したものです。

直径5㎜ほどのダニは、彼女の血を吸って大きく膨らんでいました。
通常紹介されるダニの姿(下の図、国立感染症研究所のホームページから)とはまるで異なりますね。たらふく血を吸ったらダニは、こんな球体になるのです。
診察しても、彼女は特に異常なくて、とてもお元気でした。乳首の近くにダニに咬まれた跡があるだけでした。

私の心配をよそに、「このまま様子をみましょう」と彼女は独り言のようにつぶやいて帰っていきました。
私は、その後、2週間に三回再診して特に何事もないことを確認し、「心配なし、完治」と判断しましたが、彼女には最初から、そのような「読み」があったのでしょう。
彼女は、その後もお元気で、今年も美味しいお野菜を作っていらっしゃいます。
「今年もダニには注意せにゃあかん」と、にこにこしながら話されています。まさに猛者・猛女!
あれ以来、私は彼女に頭が上がらなくなりました。

♣この出来事は、私のように「ダニ経験」の浅い医師にとって、とても示唆に富むものでした。
特に、二つの重要なポイントがあります。
ひとつは、ダニに咬まれたからと言って「あわてるな」「うろたえるな」ということ
この女性が身をもって教えてくださったのです。
「ダニ~~」と心配して救急外来に駆け込む必要はないということです。
ダニに咬まれたからと言って、『必ずしも病気になるわけではない』ということ
ダニに咬まれると怖い感染症がうつると皆さん心配されますが、その確率はとても低いのです(後述)。

さて、今日は、ダニ対策をおさらいしておきましょう。

まずは予防!  ‐服装に工夫を‐

◆この季節、野外活動や農作業のために、山林や草むらに入るときは、肌を露出しないことが最も大事です。河口付近も要注意です。大雨の災害地も然り!
もし、忌避剤(イカリジン、ディート)配合の虫よけスプレーがあれば、さらに好ましいと言えましょう。
帰宅したら、入浴時には、体表面をよく観察してダニがいないか確認しましょう。

知り合いのダニ専門家から聞いた話ですが、実は、野外で「痛い!」ってその場で気づくような疼痛は、「ダニ」ではありません。
ダニは、巧妙に人間や動物に近づきます。皮膚に着いた時、人間も動物も気がつくことは通常ありません。
そして、肌に着いたダニは、時間をかけて「一番咬みやすい処」を探します。血が吸いやすい場所を探すのです。
咬みついても、人に気づかれることもほとんどないと言います。あるとしても、「違和感」「ちょっと痛痒い」という程度の症状でしかありません。
道理で、冒頭のダニ猛女も、あんなに血を吸われていても気づかなかったわけです。

ダニが一番好む場所は、皮膚の柔らかい場所です。上の女性のように乳房、脇の下、腹回りなどが代表的な部位です。子供では、頭皮や首回りに咬みつくこともあります。

ダニを見つけても慌てないで! ‐救急疾患ではない‐

◆野外の活動から自宅に戻ったら、身体にダニが着いていないかどうか、よく観察してください。
血液を吸うまで、彼らはさほど大きくありません。幼いダニは小さなほくろのように見える程度です。
もし、見つけても、あわてる必要はありません。皮膚に着いてから数時間は、まだ彼らは好ましい場所を探している段階です。野外活動から帰宅したその日であれば、まだその段階だと考えられます。
この状態では、軽く払い除ける程度で皮膚から落ちてしまいます。まだ皮膚に咬みついていないのですから。

この時点でのダニは、まだ血を吸っていない、つまり、皮膚に侵入していないから、ダニから感染症を媒介される可能性は、最も低いと言えるでしょう。
それでも、心配は尽きませんから、払い落としたダニは密封できるガラス瓶などに入れて冷蔵庫で保管しておけばよいです。
媒介される感染症の多くは、2週間以内に発症します。だから、発見から2週間保管すれば良いことになります。

すぐに脱落するダニの特徴 ‐ダニをよく見てみよう‐

◆簡単に落ちてしまうダニには、二つのパターンがあります。
①上の猛者が持ってきたダニのように、何日間も私達の皮膚に咬みついて血を十分に吸ったもの。彼らは吸い終わったら、自らポロリと落ちていきます。
この場合、後述するダニの口器が皮膚内に残ることはまれです。

②まだ皮膚に咬みついていないダニ、あるいは、咬みついて時間が経たないダニです。このようなダニから病原体を感染させられる可能性は、まずないと言えます。
前者との区別は、虫体が血液で丸々と太っているか否かです。

両者とも、可能ならダニを捕獲して密封できる容器に入れ、冷蔵庫などで保存してください。
前述のように、2週間が目安です。

皮膚に着いて離れない(取れない)場合は、どうしたら良い?

◆さて、見つけたダニが、皮膚に咬みついてしまい、簡単には皮膚から剥がせない場合は、どうしたら良いでしょうか?
自分で摘み取ってはいけないのでしょうか? ネットなどでは、そんなことをしたら大変なことになる!と警鐘を鳴らす記事もみかけます。
理由は、無理に剥がすと、ダニの「口器」が皮膚の中に埋没したまま遺り、そこから感染症を媒介するというものです。このような感染症には、各種のリケッチア症や重症熱性血小板減少症候群などがあり、罹患するとちゃんとした治療を受けないと命にかかわります。

ですので、慎重に剥がすことが求められます。
推奨される方法は、大きく分けて三つの方法があります。

①誰にでもできる方法

通称「ワセリン法」と呼ばれているもので、ワセリンやポマードなどの油脂状のものでダニを覆うと30分くらいで、ダニは窒息して自然に脱落するというもの。
無理な力をかけずに除去できるので、安全で誰にもできる方法であると多くのサイトで紹介されています。ダニの専門家の間では、推奨する人と、不確実だからやめた方が良いという意見があるようです。
私は実行したことがまだないけれど、経験を積んで改めて報告したいです。

②器具を使って用手的に除去する方法

ピンセットや専用器具を用いて除去する方法。Tick Twister®など動物・ペット用の器具が人間にも使いやすいと紹介するサイトもあります。
これの問題点は、上手に取らないと、「口器」と呼ばれるダニの体の一部が皮膚に残る可能性があること。たとえ、残ったとしても、多くの場合は何も起こらないのですが、痒みの原因になったり、口器のなかに病原体が潜んでいた場合にその感染症を引き起こす可能性があります(下記参照)。

①②の方法で除去出来たら、そのダニは捕獲して密封容器に入れて冷蔵庫で保存しましょう。
もし、後述の感染症が発生した場合、ダニの種類が分かれば、医師が治療方針をたてるうえで参考になることがあるからです。

③医療機関で除去する方法

医療機関でも、①②の方法が行われます。さらに、麻酔して皮膚を切って除去する方法が用いられることもあります。
上記の①②の方法が出来ない人は、医療機関を受診してください。

何度も繰り返しますが、冒頭の患者さんのように、おそらく何日間も咬みつかれていても、なんら病気を起こさないことがほとんどなので、過度な心配は無用です。

山あり・ダニあり~~
お役所仕事にしては面白い!たまには良いことやるね、厚労省!

ダニ媒介感染症の症状 ‐2週間以内の発熱が目安‐

◆媒介する感染症には、重症熱性血小板減少症候群リケッチア症(日本紅斑熱やツツガムシ病など)に大別されます。
医学的な詳細はここでは割愛しますが、重要なことは、感染した場合、『発熱』が必ずあることです。
さらに、紅斑(赤い発疹)を伴っておれば、リケッチア症が疑われます。
一方、紅斑がなく、嘔気・嘔吐・下痢・下血(便に血が混じる)などの胃腸症状を伴えば、重症熱性血小板減少症候群が疑われます。
ともに、咬まれてから数日から2週間以内に発熱とともに発症するので、ダニを見つけてから(あるいは、除去してから)2週間は発熱の有無に注意するのがよいです。

繰り返しますが、両者ともに、センセーショナルに論じられているものの、実際にダニに咬まれてもこのような感染症を発症する人は決して多くありません。
国立感染症研究所の報告によると、概ね一年間に、日本紅斑熱やツツガムシ病は数百例、重症熱性血小板減少症候群は数十例の届け出があります。
つまり、前者は各都道府県で10名程度、後者は各県に1,2名ということになります。後者は、東日本ではまだ発症例がありません。

これらの病気の潜伏期は2週間以内ですから、その間に「熱が出るかどうか」を見極めていくことが最も大事なことです。
熱っぽい、食欲がなくなった、寒気がする、発疹ができた、下痢をした、吐きそう・嘔吐した、こんな症状があれば、それは無視できません。
この時こそ、必ず近くの医療施設を早く受診する必要があります。こんな場合は、捕獲したダニを持って、深夜でも遠慮せずに救急外来を迷わず利用するべきです。

♦ダニのシーズンを迎えた2019年、少しでも皆様のお役に立てるように書いてみました。
皆様が楽しい野外活動を楽しまれることをお祈りします。

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