患者さんが「初めて教えてもらった、うれしい!」って言ってくださった食塩量。
「こんな数値を今まで一度も聞いたことがなかったから、検査してくれてありがとう!」って、Kさんの素直な感謝の言葉に、私こそとても嬉しかった。
Kさんが喜んでくれたのは、「推定食塩量」検査のことです。
「Kさん、塩分の摂りすぎですよ、12gも食べてることになります」と私は説明しました。
「先生、そんなことも分かるのですか?!」
「そうなんですよ。昨日おしっこを分析した結果です。」
受診時の尿に含まれる塩分から、その人が前日にどれくらい食塩を摂ったかを推測することができるのです。採血しなくても簡単に調べることができるうえに、こんなに喜んでくださるなんて!
腎臓内科の診療では、診察のたびに食塩の量を推測して患者さんに提示するのが当たり前なのですが、一般の内科診療ではあまり行われていません。Kさんは父の時代から野村医院に高血圧治療のために十年以上通院している患者さんですが、推測値とはいえ、具体的な食塩量を聞くのは初めてだったのです。
さらにKさんは続けて質問してくださいました。
「じゃ、どれくらいにしたら良いのですか?」
私は、胸がいっぱいになりました。良いなあ、このリアクションは!
嬉しくて声を詰まらせながら、「6gに減らせたら理想ですね」と答えました。
食塩の摂りすぎに注意!
高血圧をはじめ、糖尿病、高脂血症、肥満、痛風などの生活習慣病は、その名前のとおり普段の生活習慣が病気の発症や進行に密接にかかわっています。生活習慣のなかでもまず食習慣が最重要です。とくに塩分の摂りすぎは高血圧に繋がりやすく、動脈硬化を招き、心筋梗塞、心不全、脳卒中、腎臓病などの疾患を引き起こすことになります。世の中にはさまざまな食養生が提唱されていますが、高血圧や腎臓病に対する減塩食を否定する医師は、世界中に一人もいないことでしょう。それくらい、大事なことです。
かつて、世界で最も塩分をたくさん摂取している民族と言われた私たち日本人の食生活も、次第に薄味にはなってきていますが、平均食塩摂取量は、いまだに男女ともに10g前後あります。
厚労省は、高血圧の「予防」のために、男性は8g、女性は7g未満にするよう国民の目標値を定めています。また、すでに高血圧や腎臓病を発症している患者さんでは、一日食塩摂取は6gまでにとどめることが良いとされています。
減塩したら、何が期待できますか?
「お塩を減らそうね」
「薄味にしましょうね」
「辛い物を食べすぎてない?」
こんな一言では、挨拶にしか過ぎないことは私も分かってはいました。
野村医院を継承して、より質の高い診療をめざすべく、「具体的な食塩摂取量」を提示する検査を始めたところ、Kさんだけでなく、関心し興味を持ってくださる患者さんが増えています。自ら食生活を工夫して改善してくださる人が増えてくれたら、これほど嬉しいことはありません。
Kさんは「今日聞いた話をもう一回良く考えて、食事を工夫してみます。がんばってみます。」と言って帰って行かれました。次に外来にいらっしゃる日を、私は楽しみにしています。
その効果は、必ず現れます。
食塩を減らそうという努力は、私は食材にこだわることにつながると思っています。食生活がより豊かになることは、間違いありませんから。すぐに数値に現れなくても、何かが始まります。
減塩が達成できたら、きっと、血圧がさらに安定することでしょう。
次に、血圧のお薬を減らす・中止することもできるかもしれません。
そして、遠い将来に起こるであろう合併症(動脈硬化、心筋梗塞、心不全、脳卒中、腎臓病)などを遅らせる、あるいは、起こらずに一生を過ごすことができるかもしれません。
栄養指導も利用して、減塩を達成する。
野村医院では、これと並行して管理栄養士による栄養指導も行っております。
4人のベテラン栄養士が私の診療をサポートしてくれています。
高血圧や腎臓病に対する減塩食はもちろんのこと、糖尿病、高脂血症、痛風、肥満の指導もさせていただきます。さらに、高齢者の誤嚥・窒息予防のための調理アドバイスなども行っております。
杓子定規的に、目標数値を並べて話すのではありません。あなたの住まいと食生活、季節によって変わる食材、それぞれの患者さんのお仕事や嗜好なども考慮してベテラン管理栄養士は、相談にのってくれるはずです。苦しい食養生は、必ず破綻します。長続きしません。毎日の食事を楽しみながら、少しずつ工夫を重ねていくように、栄養士も考えてくださいます。
自分の食養生のどこがいけないのか、注意すべき点はどこか、あとひとつ工夫するとしたらどこか、仕事をした日としない日では食事のパターンは変えてよいのか、、、などなど。相談してみたいことをご遠慮なくお申し付けください。